小林真理声楽マスタークラス 第5回開講告知 & 第4回報告

すっかり日仏現代音楽協会の恒例企画となりました、協会名誉会員でストラスブール音楽院教授の小林真理先生によるマスタークラス。好評にお応えして、第5回の開催が決定いたしました。日程は12月27, 28日の二日間です。古楽から現代作品に至る幅広いレパートリーにますます磨きのかかる小林先生は、国際的な演奏活動とともに各地での指導にも熱心に取り組まれています。世界中の生徒さんを惹きつけてやまない、小林先生のエネルギッシュなレッスン。この機会にぜひ間近でご体験ください。

講師プロフィール 
小林真理

鎌倉市生まれ。3歳よりピアノを始め、10歳より中村浩子女史に師事し声楽を学ぶ。

1979年東京芸術大学音楽学部声楽科を卒業、同大学院修士課程に進み、1981年文化放送音楽賞受賞、第1回日仏声楽コンクールに入選、フランス音楽をより深く学ぶために留学を決意し、1982年フランス政府給費留学生としてパリ国立高等音楽院に入学、レジーヌ・クレスパン女史に師事、1987年同音学院のオペラ科を終了、1989年にはウィリアム・クリスティ氏の指導する同音学院の古典声楽科のクラスを1等賞を得て終了する。パリ国立高等音楽院に在籍中の1983年頃より数々の国際声楽コンクールにて受賞(1984年パリのフランス歌曲国際コンクールでフォーレ賞、1988年クレルモン・フェランのオラトリオ・リート国際コンクールではリタ・シユトライヒ・記念大賞)この頃よりバロックから現代音楽に至る幅広い演奏活動を始める。
1993年には その後進学した東京芸術大学博士課程において博士論文『オリヴィエ・メシアンの歌曲研究ーハラウイを中心にー』を書き、博士号を収得する。
コンサート活動においては ピエール・ブーレーズの指揮でシヤトレ劇場でハリソン・バートウィッスルの〔メリヂアン〕のフランス初演、フランス国立管弦楽団、フィルハーモニック・オーケストラと共演、オランダのコンセルトゲボー・ホールにてシェーンヴェルクの〔4つのオーケストラ歌曲作品22〕、佐渡裕指揮でオーケストラ・ラムルーとマーラーの交響曲第2番、現代音楽作曲家の初演は数多く、アンサンブル・アンテルコンタンポランと数度共演、ロストロポーヴィッチの指揮で小林真理のために書かれたピヨートル・モスの〔スターバート・マーテル〕、最近ではフィリップ・ルルーの新作をロレーヌ国立管弦楽団とフランスとドイツで初演、ヨーロッパのみでなく、アメリカ、東欧、オーストラリアにてもソリストとして活躍している。オペラの分野では ジェフリー・テート指揮によるベルクの〔ルル〕の女流工芸家役、プッチーニの〔蝶々夫人〕のスズキ役、モーツァルトの〔コシ・ファン・トウツテ〕のドラベラ役、ヴィヴァルディの世界初演〔真実の証〕のルステーナ役などを演じている。
CD録音も多数に及び、モーツァルトの〔レクイエム〕、〔マニュエル・ロ-ゼンタール歌曲集〕、〔20世紀の作曲家の編曲による世界の民謡〕などがあり、最近では、フランスを代表するサクソフォン奏者、クロード・ドラングルとの〔japanese love songs〕、メシアンの〔ハラウィ〕などがある。
1999年にフランス国家教授資格を得て現在ストラスブール地方音楽院で声楽の専任教授を勤め、ニースのアカデミー他、各国でマスタークラスを行い、後進の指導にも情熱をそそいでいる。
倉敷の大原美術館のギャラリーコンサートに計3度出演した他、2013年にはフランスの各地でオーケストラとワーグナーの「ヴェーゼンドンクの歌曲」を数回歌い、同年10月25日には東京シティフィルとプーランクのオペラ「カルメル派修道女の対話」〔演奏会形式〕の修道院長の役を歌って好評を博した。

(当協会のホームページで小林真理さんへのインタビューを掲載しております。あわせてご覧下さいませ)

日時

12月27日(日)13時〜20時
12月28日(月)13時〜20時
会場
川崎市内の練習室(駅の近くです。メールにて地図をお送りいたします)
対象
受講生
– 声楽を専門的に学ばれている方
– フランス歌曲やフランス語オペラを学ばれたい方
– 声楽分野でフランスへの留学を希望されている方
– フランスにおける声楽教育を体験されたい方
– 声楽の初心者やアマチュアで学ばれている方
聴講生
-専門的な知識の有無にかかわらず、興味のある方はどなたでもご見学可能です(事前に事務局へのお申し込みが必要です)。
-レッスンの妨げにならない範囲での入退場は自由です(お問い合わせいただいた方には、当日のタイムテーブルをお送りいたします)。
レッスン形式
– 原則としてお一人様1時間の個人レッスンとなります。お申し込みの際に、上記の日時内でご希望の時間帯をお知らせ下さい。お一人で2時間続けての受講や、2日間にわたって複数枠の受講も可能です。
– 受講曲目は自由です。2、3曲程度ご用意下さい。事前に講師ともご相談いただけます。
– 伴奏者はご自分でお連れいただくか、協会事務局からのご紹介も可能です(紹介の場合の奏者への謝礼は、1枠につき5,000円となります)。
-受講生は、会場の定員の範囲内で他の受講生のレッスンも自由にご見学いただけます。
参加費
-受講料 : 22,000円(複数枠をお申し込みの場合、2枠目からは各18,000円)

-聴講料 : 2,000円 (両日の場合は合わせて3,000円)

※受講料には当日練習用のスタジオ代が含まれます。伴奏合わせ、発声などにご利用ください。

お申し込み・お問い合わせ
日仏現代音楽協会事務局

*前回8月のマスタークラスに参加された佐藤千香さん、中村香織さんからメッセージが届いております。小林先生のレッスンの様子や留学時代のご経験など、たっぷりと綴っていただきました。

日仏現代音楽協会 小林真理先生マスタークラス  受講レポート
去る8月、川崎のスタジオにて小林真理先生のマスタークラスを受講させていただきました。普段はフランスでお忙しく、大活躍の真理先生。バカンス中の鎌倉の海でこんがり焼けた明るいお顔から、会場に着いてすぐエネルギーをいただきました。
真理先生のレッスンは、フランス歌曲、オペラ、バロックから現代まで、様々なジャンルを指導してくださいますが、なにを歌うにせよ、まずは体と声の一致を目指すところから始まります(体の落ち着く中心に、自然に声を沿わせる、というふうに私は感じています)。そして、そこを見つけられないうちは、大変な苦しさがありますが、とにかく探します。生徒と一緒に、先生も一生懸命、本当の声を探してくださいます。今回のレッスンも、柔軟な良く開いた体と声に、ことばの響きと表情を乗せて、さながら「英国王のスピーチ」のように丁寧に、また大胆にご指導下さいました。
私は2009年から2013年まで、ストラスブール地方音楽院の真理先生のクラスに学びました。とにかく早く上達したいということで頭も体も魂もカチカチで、正直なところ最初の何年間はなかなかうまくいきませんでした。泣いたり笑ったり色々と、東京よりずっと人間の感性が躍動的な地で、自然体で生きられるようになったころから、真理先生の仰ることが体にしゅしゅっと入っていき、歌うことが自由になりました。外国語の発音、発語は知れば知るほど大変なものですが、日本的な細かい、手の届くコントロールを頑張るよりも、真理先生が指導されている顔の筋肉いっぱいに柔らかく、広く使う、というようなアプローチの方が、ずっと声と音楽に結びつくと感じます。先生のいつも仰る「ハーモニーのある声」でしょうか。
歌うことに不自由を感じていて、でも自分の声でフランスものを歌いたいと願っている方。次回の真理先生のマスタークラス、おすすめします!
佐藤千香
8月末に日仏現代音楽協会主催の小林真理先生のマスタークラスを受講し、その時に必要な事柄を的確かつシンプルな表現でご教示頂きました。真理先生にお世話になりまして早7年が過ぎようとしていますが、そのご縁に心から感謝しています。留学から帰国して以来、年に数回の先生のレッスンで培ったことを手がかりに、自分自身で消化して演奏や教育に生かすように励んでいます。学生の時とは状況が変わり、演奏の内容だけでなくレッスンの受講の仕方も変わるのだなと改めて実感している今日この頃です。
 異国から母国の生活へと戻って気づくこともあり、留学で学んだ音楽研鑽を含めて、現地の日常生活から学んだことや経験を今後どのように生かせるだろうと思いを馳せながら、また音楽への熱い思いを抱いて世界に羽ばたく方々が今後さらに増えて、芸術が豊かに発展するよう願いながら、微力ですが私自身の経験について書かせて頂きたいと思います。
 私は、ドイツの国境沿いにあるフランス国立ストラスブール音楽院で3年間声楽を学ぶ機会に恵まれました。授業や演奏家ディプロム等を取得する中で、得意不得意に関わらずルネサンスから現代に至るまでの各様式の声楽スタイルを学べたこと、身体表現を授業やタップ・ダンスを通して体感できたことは、大きな財産となりました。また編成に関しても、ピアノと歌のみならず、声楽ソロ作品や少人数の声楽アンサンブル、オーケストラや室内楽(歌とフルート、ギターと歌、歌と打楽器ー歌手自身も打楽器を使用しながら歌う)での演奏など、日本では体験できない貴重な機会を得ることができました。学校の様々な企画演奏会や学外での演奏経験にも、とても感謝しています。
 音楽院在籍3年目には、ストラスブールから急行電車で1時間ほどにある、ドイツのザールブリュッケンにほど近いディーメリンゲン音楽舞踊学校の声楽講師として、8名の生徒に恵まれました。当時の鉄道は、労働者の年金問題でストライキが多数起きていたため、何度も生徒のお宅に泊めて頂いたり、仲間や近所の方々も参加して多くの方と食事を共にしたり、野いちごを摘んだり、自家製タルト・フランベ(アルザス地方の郷土料理)を作ったり、様々な事柄を話す多くの機会を持つことができました。周りに支えられながら何とか勤務ができた状況でしたが、現在も続く生徒やその家族、同僚と繋がりは心の財産となっています。
 フランスに滞在して実感したのは、文化が保護され芸術が豊かに存在するということです。オペラやオーケストラの演奏会などは、様々な年齢層が気軽に楽しむことができますし、特に可能性溢れる子供たちも幼少から広く芸術を享受できることは素晴らしいと思います(以前、スティーブ・ライヒの打楽器作品の演奏会の休憩中に、5歳前後くらいの男の子たちが「Salut!」と挨拶し、楽しそうに作品について色々話しているのを見て、そのことを実感しました。また、市場の野菜売りのおじさんが、機嫌良くモーツアルトのオペラ「魔笛」の夜の女王のアリア、あの難しいメロディーを自在かつ音程も正確に口笛で吹いていた時には、仰天しました。)
 実際に現地で生活し肌身で感じることで、音楽や詩の世界を理解する糧となったことも多くあります。Forêt noire(黒い森)が何故黒いとされるのか?自然に畏敬の念を抱かせるものが、そこには確かにありました。そして、何故春にそれほどまでに喜びを感じ、待ちわびるのか?日本の冬晴れとはほど遠い曇り空が続く冬、その対比としての暖炉の温もりや人との交流の温かさを知り、その長く暗い冬があるからこそ、哲学や内なるエネルギーから出でる音楽や詩などができたのではないか?と感じ、そして一気に訪れる春に驚きと喜びを皆で一杯に味わい、やがてイースターがやってくる。これらのことを経験した時に、今まではぼんやりとしていた西洋音楽の「春」が、ようやく自分自身で理解できました。多忙な中では味わえない五感の研ぎ澄まされた時間や、時の移り変わりを実感することで、人の幅は少しずつ広がるのではないかと感じています。
 物事には光と闇があり、白と黒の間のグレーの濃淡の中で、五感を開いてそこに在るということが、まず第一に大事だと考えています。過去から現在に至る歴史があり、考えの異なる民族・宗教、格差から生じる歪みなど、多くの問題が存在する中で今があるということを、与えられた(見出した)地で、感じて自ら動く。これも、かつて3度ドイツ領になった歴史があるストラスブールで経験できたことで、「郊外」と呼ばれる移民の多いエリアの格差を目の当たりにし、様々な人々がどのように共存して混沌の中でまとまっているかを現実に見てきたことで、帰国してからの物事の見方も変わってきたように思います。
 実際に留学するには、音楽研鑽の方法、手続き等の実務、費用など十人十色の問題があると思いますが、解決する方法は一つとはかぎらず、問題を打破する方法を多方面に模索することで、その糸口が見つかると私は考えています。
 帰国してからの今後につきましては、音楽を通して自ら芸術の力を体感できたその経験を生かしてまいりたい、演奏を通して皆さまと音楽の魅力を共に享受できるよう研鑽し、活動を続けていきたいと願っています。そのためには日本での現実の生活の中で、いかに自分自身の内側から心を養い、豊かに満たしていくかを意識することが大事だと思っています。人には気をつけないとすぐにエゴイスティックになる傾向が、自分も含めてあるからです。最近は、電車に乗ると座席の乗客のほとんどがスマートフォンを見たり、音楽を聴いたりしているのが珍しくありませんし、立ったまま音楽を聴きながらスマホを凝視している人は、後ろから人が乗車してきても気配を感じることができないという状況が起きています。それ自体が悪というよりも、大人数が存在していても互いに存在しない・見ないように接する、そんな不思議な感覚に危機感を持ちます。
 言葉のボキャブラリーもそうで、言葉は諸刃の剣ですから意識していないとすぐに枯渇します。さらに、教養は自分だけのためでなく、皆と共栄する潤滑油でもあると思っているので、未熟な中にも少しずつ身につけて心から豊かになれるよう、さらに音楽や文化、様々な美しいものが多くある世の中に在り、そんな世の中が続くよう願いながら、末筆とさせて頂きたいと思います。
中村香織

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