アラン・ゴーサン作曲マスタークラス&コンフェランス開催報告
日仏現代音楽協会主催としては春の指揮法講座に次いで二番目の催しとなる「作曲マスタークラス&コンフェランス」が、去る6月6日(木)に新桜台近くのスタジオ1619において開催されました。当協会の名誉会長をお引き受け頂いているフランス人作曲家アラン・ゴーサン氏を講師に迎えた講習には、短期間の募集にもかかわらず受講生5名、聴講生14名の方々が参加して下さり、大変活況を呈するものとなりました。14時15分より始まった第1部の作曲マスタークラスでは、一人あたり45~50分をかけて作品のレッスンが行われましたが、教育者としても名高いゴーサン氏が受講生個々の作品になげかける視点と言及は、大変実際的でそれぞれに的を得たものだったと感じられました。またその真剣なやり取りを通じて「芸術音楽」というものに対する日仏両国間や世代間での意識の微妙な差異が浮き彫りにされる場面も見られました。受講生の皆さんが持参された作品の水準が高いことにゴーサン氏はとても驚き、満足されているご様子でした。
この日の白眉は第2部のコンフェランスであったと思います。ゴーサン氏はまず2006年に書かれた比較的新しい彼の室内楽作品であり、日本においてもEnsemble Vivoが2008年に演奏した「L’Harmonie des Sphères / 球体のハーモニー」を分析の題材として取り上げました。流麗な曲線を描く手書きによる様々な線描を出発点に、OpenMusic (IRCAMにおいて開発され、現在多くの作曲家によって使用されている作曲支援ソフトウェア)なども活用しつつそれらが音高やリズムの表現へと置き換えられ、スコアに定着していく過程が仔細に述べられて、視覚的な着想が聴覚による豊かな音楽作品へと結実していく様が非常に解り易く示されました。それは、ピュタゴラスとケプラーから想を得たというこの独創的なファンタジーと響きに満ちた作品が、如何に知的且つ論理的に構成されたものであるのかを我々に解き明かすばかりでなく、真の作曲家の仕事がどのようなものであるのかを身をもって示される素晴らしい内容であったと思います。
次に彼の代表作であるフルート・ソロ、ソプラノ・ソロとオーケストラによる大規模作品「Irisation-Rituel / 虹の光彩-儀式」(1980)へと話が進みましたが、残念ながら細部の分析をしていただく時間がもはや残されていなかったものの、精緻を究める大判手書きスコア(何と3部もご持参下さいました!)の迫力はそれだけで見応え充分なものであり、参加者一同、呪術的で神秘的な雰囲気をもつ作品のえも言われぬ魅力に聴き惚れ、圧倒されていました。
6時間半という長時間にわたって殆ど休憩もとらずにご指導、お話下さったゴーサン名誉会長と、彼のお弟子さんの一人でもあり、今回素晴らしい通訳をして下さった会員の作曲家台信遼さん、そしてご参加下さった全ての方々にこの場をかりて心から御礼申し上げたいと思います。